★お気楽日記★

アリとキリギリスでは断然キリギリスです。 うさぎとかめなら、確実にうさぎです。 でも跳ねる趣味はありません。

「絢爛豪華 祝祭音楽劇 天保十二年のシェイクスピア」の感想⑧(シーンごと)

その⑦から続きです。

 

19.関八州親分衆

座敷のセットが登場、下手に三世次と河岸安が着座、そこから上手側に、笹川の繁蔵や飯岡の助五郎ら関八州の親分が5人並び、関八州親分衆の歌を歌い踊ります。「この世は全て親から継いだ格式順序次第、だがやくざは違う、てめぇの器量が全て」という内容の歌。

三世次は踊る笹川の繁蔵をじっと凝視。(日によって全く親分を見ずに前方を見ているだけの日もあり。円盤収録の日はどっちかな)繁蔵親分役の玉置さんは一生さんと同じ事務所だから仲良しなのかしら?・・・なんていうプライベートは持ちこむはずが無く、イセクラの師匠いわく「花平一家を三世次が継ぐとしたら、その上は繁蔵親分になるから、しょせんやくざで出世してもこの程度かと思っているのではということでした。なるほど。(玉置さんがまた可愛く踊ってるから、ついプライベート感を感じてしまう・・・)

(この親分衆の中に清水の次郎長役で浦井さんが登場します。二幕最初で死んでしまって浦井さんがもう出ないということは無さそうだから、親分の誰かで出るんじゃないかなと予想していたらビンゴでした!)

大前田の親分が議長で、「幕兵衛とお里の弔いも終わったし、あとはこの清滝の縄張りを利根の河岸安に継がせるか、その隣の・・・(名前が出てこない親分に三世次が名乗って)その三世次に継がせるかだ」という話をしますが、河岸安が兄貴分なのだから河岸安でいいだろうと満場一致で決まります。(この話しあいをするなか、三世次は親分たちに名前を覚えてもらえず、「ええと・・・」「佐渡の三世次で、親分」みたいな扱いです)最後に「(河岸安が跡目と言うのを)おめぇも合点したろうな?」と聞かれて三世次は「心の底から喜んでおります」と答えて皆を不思議がらせるところから、三世次の反撃が始まります。(この「人を悪く言わないで褒めたたえることで政敵を陥れる」という演説が、「ジュリアスシーザー」です)

お前が継ぐんじゃないのになんで嬉しいのか聞かれ、「河岸安の兄ィはまことに非の打ちようのないお人柄」と繰り返して河岸安を褒めたたえながら、河岸安が朝から晩までずっと姉さんと一緒にいて、時には疲れて姉さんの部屋で寝入ってしまうくらい姉さんに尽くしていたと説明、親分たちに河岸安がお里と出来ていたかのように思わせる三世次。(「立ち働く」と言いながら、「立ち」の時に手であそこがたっているかのようなポーズをとるみよたん。東京独身男子の番外の人参持った玲也思い出す)

親分らが自分とお里の仲を疑いだしたと知って、焦って三世次を止めようとする河岸安と、先を続けろと促す親分たち。最初は名前も忘れる存在だった三世次の名前をここからちゃんと呼び始めます。促されていったん「どうも気乗りがしなくなりました」と引く三世次。「なんでだ?」と問われて「河岸安の兄ぃは非のうちどころのないお人柄(なんでここだけ「打ちようのない」じゃなくて「打ちどころのない」なんだろう)、そのことをお話すればするほど兄ぃが浮かぬ顔になっていく。どうもあっしは口下手でいけねぇ」と心にもないことを言いますが、親分らは真に受けて「口下手なやつほど本当のことを話すものだ。続けろ」と言い、続けろという言葉を待っていたかのように「へぃ、とにかく河岸安の兄ぃは・・・」とすかさずまた早口で褒めたたえる三世次。(観客に笑いが起こります)この場面は早口で河岸安の兄ぃがいかに非の打ちようが無く素晴らしいかをまくしたてないといけないのですが、ほんと早口で活舌も良くて聴きとりやすく面白かったです。そして河岸安はとても気前が良く、落ち込んでいるお光に櫛を贈ってあげたのだが、その櫛は親分がお里に贈ったものだったから、親分はお里と河岸安が出来ていると邪推した、これが心中の真相だと語ります。(三世次が幕兵衛やお光の台詞を言う時に声色がちょっと変わるのも楽しい)河岸安は慌てて「あの櫛は俺の知らない間に行李に入っていたのだ!」と抗弁しますが、「信じますよ、兄ぃ」という三世次に「信じられるものか!三世次、おめぇは単純過ぎるぜ」と親分らは言い、(ここで三世次は「ええ?」って顔をする、わかって仕組んだくせに)「仲間のかみさんと出来たやつは」と言って河岸安は斬り殺されます。三世次「え?え?どうしよう??びっくりー」みたいな顔をして河岸安に悲しげに手を伸ばしますが、親分らが去るとにやりと笑って、河岸安の死体をちょこんと足蹴にして自分も退出します。(なんでこんな可愛い足蹴なんだ)悪いやつだけど小動物感あってとてもかわいい三世次でした。

この場面、舞台を見ている時は河岸安を可哀想に思ったのですが、よく考えると河岸安がお光に櫛を贈ったのって、花平一家での出世への下心なのかもしれないですね。(お光に惚れたというのではなく)お里と幕兵衛には子供がいないし、跡取り娘だったお里の妹のお光と所帯を持つことになったら、花平一家でのNo2の座が手に入るという計算があったのかも。

とすると、まあ河岸安も縄張りに欲を出して足をすくわれたという感じなのかな。(だいたい行李の中にあった櫛でなんとかしようというのがせこかったんだよ・・・)

新感線版の河岸安はちょっとまぬけな感じに見えたので、三世次の口車に乗っちゃったり、三世次が褒めているとはいえ事実じゃないことを言っているのに褒められているからとぽーっとしていて、三世次に話させちゃったとかさもありなんな感じでしたが、今回の河岸安は有能なイケメン風だったので、己の魅力を過信して、三世次を低く見ていて足をすくわれちゃった感じです。(河岸安がイケメンで切れ者に見える分、三世次の話術の力量が問われたと思います)

そしてお光。これは櫛の場面の考察で言うべきだったかもですが、お光が寝込んでいるというのは、王次を失ったショックと言うより、自分が双子でその方割れは代官に育てられ同じ身分の代官の妻となっているのに、自分は任侠の家で育って結局ゴミのような身分にすぎないということがショックで寝込んでいるような気がしてなりません。というのも、本当に王次とラブラブだったら、死んで数週間?で他の男性からの櫛(今で言うとティファニーの指輪みたいな感じ?)は受け取らない気がするんですよね。自分を暴漢から守って死んでしまった恋人がいたら、数年はそんな気にならないなあ、私なら。王次が死んでしまったら浮気草の魔法が解けたのかしら?

おさちの夫の代官が、自分の恋人の王次を斬り殺してもまったくお咎めなしなのも、自分とおさちの立場の差を感じてショックだったんじゃないかな。

あとやはり「浮気草」という名前も気になります。王次とお光は本気(本命)じゃなかったってことなのかしら?(パンフレットで浦井さんが「一番愛した女性を罵倒しないといけなかった」と話してらっしゃって、そうなると王次の本命はお冬だったんだろうか?)王次とお光はお互い自分の身の振り方に対する現実逃避で、無理にバカップルのように盛り上がっていたのかなあ?

なんかおさちは腹を据えて条件だけにしぼって婚活した婚活女子で、お光は婚活市場にいがちな今時の悩めるそこそこキャリア女子みたいな感じに思えます。(なまじ読み書き算盤が達者で剣の腕もたってしまい、男性顔負けのスキル持っているから、おさちみたいに腹を据えられないし、でもしょせん女だからガラスの天井あるし、みたいな感じか)

 

20.唆と錯

ここだけタイトルが難解に。「唆」はそそのかすっていうことで老婆が三世次をそそのかすことを言うのでしょうが、「錯」は「間違える」という意味なのか「そむく」という意味なのか。「一人で二人の女と深間に嵌ったら畳の上で往生できない」という予言に背くということかな?

さて、先ほどの場面ではけた三世次(第一形態)が、きっと裏でせっせと第二形態に早変わりしている間(20日のマチネでは間に合わず、羽織りに袖が通せないままわたわたしながら登場でした。着せてあげたかった)、女郎衆が「さど屋」の歌を歌い、セットの旅籠には猪の暖簾が下りて(リチャード三世の紋が猪)、清滝が三世次のもの(さど屋)になったことを表わします。

そして暖簾をくぐって、るんるんスキップしながらみよたん第二形態で登場です。今までの赤の忍者みたいな着物から、お洒落な黒の着流し(中の着物が朱色)に黒の模様の羽織?(着物詳しくないからいろいろ名称とか間違えているかも)で刀を下げて、男ぶりが上がっています。そして女郎に囲まれて白い歯を見せてにっこにこ。ここがとにかくすごく可愛くて見ていて「良かったねぇ、みよたん」という気になりました。

これ、老婆の予言の「ひとりでふたりの女と深間に嵌ったら身の破滅」という予言が無かったら、三世次の夢の終着点だったのかもしれないですね。お金もあって美味しいものも食べられて、親分ということでみんながぺこぺこしてくれて、女郎もちやほやしてくれる。ここで止まっていたら幸せに暮らせたのに、みよたん・・・。

でもみよたんの欲しいものは、おさち/お光と深間に嵌ることになってしまっている。相対化の世界に生きると言っていた三世次、相対化であれば、過去のみんなに気持ち悪いと思われ、博打のあぶく銭で食いつないでいたことと比較したら、今は充分幸せと思えたはずなのに、予言のおさち/お光と深間にはまることを絶対的に求めるようになってしまった。ひとりでふたりの女なんてありえないものが存在したのだから、その女(おさち/お光)を手にも入れられるんじゃないかと。

そう悶々としているところに清滝の老婆がやってきます。老婆もここで三世次におさち/お光を諦められたら、血が流れなくてつまらないからそそのかしにきたのでしょう。「自分で自分を殺さない限り抜け道はあるかもしれないよ」などと言います。これは「マクベス」の「女の股から生まれたものには負けない」「バーナムの森がやってこない限り大丈夫」という、そんなことはありえないから自分は倒されないと思わせる予言と同じですね。

そんな悪意100%の老婆なのに、みよたんったら会えて嬉しそうな顔してるよばかだなあ・・・(泣)。まあ嬉しそうにしながら刀で切りつけるのもたいがいだけど。そして腕には自信なさそうなこと言ってたくせに、刀さばきが見事すぎるみよたん。(時代劇はお手のものの、中の人の腕前が出てしまった)

で、自分で自分を殺すなんてどじを踏むわけない、と上手くいくものだと思い込んで、お光の寝所に夜這をかける三世次。深間にはまるという予言があるのだから、お光と上手くいくに違いないと思ったのか、あれだけ今までは、仕込みや段取りをして他人を操っていたのに、今回はすっかり無策。「人足寄場の麦めしで鍛えた六寸胴のいちもつ」ってサイズ自慢すればいいと思ってる・・・・それ全然だめ、女子に響かないやつ・・・。案の定「けだもの!」と拒絶されます。三世次って「けだもの」って言われるのかなりコンプレックスみたいで、顔色変わります。お光は隠し持っていた短刀を三世次の背に突きたてますが、彼の背中にはこぶがあるから致命傷にはならない。男女の腕力の差とも言えるけど、一幕ラストの立ち回りではあれだけ男以上に腕が立ったお光が、腕がそんなに立つ方じゃない三世次に敵わないのは、お光はかなりメンタル弱っていたのでしょうね。

「お前を受け入れるぐらいなら死んだ方がましだ」というお光に、相思相愛になる予定だった相手に完璧に拒絶されてキレた三世次、「好きだったぶんだけ恨みも深い」と言ってこぶに突き刺さっていた短刀でお光を殺してしまいます。(そういえば2日目は上手くこぶに短刀が刺さらなくて、刀が下に落ちちゃったのでした。その後普通にその短刀拾って刺し殺してたけど。後半の日程では、お光が慎重にこぶに刺していた気がします)

そして、暗転、同じ蚊帳から今度はおさちが外に転がり出ます。これ、暗転の隙に三世次がはけて、お光が寝間着を1枚脱いで(マジックテープではがす?)おさちになって、茂平太がそこに加わるという瞬間の早変わり。ただ、2階席から見ると、三世次の脱いだ草履がしっかり蚊帳の中に残ってました(笑)。三世次の刀は布団の中に隠したのかな。

双子だからお光に何が起きたのか手に取るようにわかる、お光が三世次に殺されて、しかも死んだお光を辱めているから、早く手付をやって三世次を逮捕して欲しいと茂平太に訴えるおさち。

みよたん応援団でもなかなかこの死後辱めるというのはフォローできない場面ではあるのだけれど、「大事の前の障子」、「櫛」と、濡れ場(性)の後には死が来たのを、ここでは死の後に「性」が来るという構造で、必要な場面だったのでしょうね。ただ、三世次が欲しかったのはお光の体では無くて(三世次本人は気付いていなかったかもしれないけど)愛情だっただろうから、そんなことをしても虚しかったんじゃないかしら。

 

その⑨に続きます。