★お気楽日記★

アリとキリギリスでは断然キリギリスです。 うさぎとかめなら、確実にうさぎです。 でも跳ねる趣味はありません。

「絢爛豪華 祝祭音楽劇 天保十二年のシェイクスピア」の感想⑨(シーンごと)

その⑧から続きます。

 

21.酒樽の中は山吹色

お光殺しの下手人として三世次は捕えられ、「後ろ手に」縄で縛られて、二人の手付に棒で打たれる詮議をされます。(隊長からこの手付は元はゴロツキだったという説明があります←だからお金に弱いという前振り)

なかなか口を割らない三世次に疲れて、手付の一人は嫌になりますが、やめたらお代官から怒られるともう一人に言われて気を取り直して、また三世次の背中を殴ると、なんと三世次は口から小判を2枚吐きだします。(唾液が・・・・笑)小判に興奮して拾い上げてかじって本物と確かめる手付たち(初日はそのままかじったような気がするけど、2日目からはかじる前にちゃんと着物で三世次の唾液拭いてた。)。

手付たちはこの小判を自分のものにして良いと知って、喜んでまた三世次を殴り、三世次は観客に背を向けてひっくり返り(そして実は後ろ手に縛られていると見せかけて、袖だけが後ろ手で、手は前に隠してあるので、観客に隠れて小判を2枚口に仕込みます)また2枚小判を口から吐き出し、というのを繰り返しますが、最後に何も出てこず、手付が「出ませんよ!」と機械が故障したかのようにいうと、「縄を切ってくれたらまたチャリーンといういい音が聞けるかもしれねえぜ」と言って、手付たちに縄を切らせます。(何もいちいち殴られてから買収しなくてもいいじゃないかと思うけど、最初から普通に買収しようとしたらさすがに手付も気が咎めるから、宝探しみたいにワクワクさせて正気を失わせてからの買収なんでしょうね)

そして袖から小判を取り出し、手付に向かって自分の下で働く気はないかという三世次。「あっしたちにやくざになれとおっしゃるんですか?」と手付が尋ねると、「俺の方が職替えをするのさ」と言って、そこにあった木槌を手に取ると、酒樽の蓋を割り、金貨の1枚を酒樽に投げ入れます。あっと驚いて手付たちが駆け寄るのに、「おめえたちにはこっちの小判を1枚ずつやろう」と渡し、茂平太のところに行って「三世次を折檻して手元が狂い酒樽の鏡板を割ってしまい、中に小判があるのを発見して1枚ずつ拾ったがもう1枚残っています」という報告をしろと指示します。そしてその後はすべて忘れろ、と。

手付たちが茂平太の元へ向かうと、三世次は「信用のできる若い者に金の包みを2つ持たせて、中根家(代官の上役の家)へ発たせよう。金包みにはそれぞれ書状を添えるんだ」と独白して、最初の書状には殿さまのお眼鏡にかなう御家人株の売り物があったら周旋して欲しい、この金子は周旋料の一部だということを書くとぺらぺらまくしたてながら、階段の方から茂平太がやってくる気配を感じると、すばやく階段わきに座り込み、後ろ手に縛られてうめいているふりをします。

階段を降りてきた茂平太は、うめいている三世次にちらっと目をやってほくそ笑みながら、酒樽へ向かうと中を覗き込み、中の小判を拾おうとします。そこへ素早く三世次が飛びかかり、茂平太の頭を酒樽の中につけると上に飛び乗って、「第二の書状。土井茂平太殿事故死のお知らせ」と、茂平太が清滝村の住人を斬り殺したり、とかく(悪い)評判があった人物だったこと、茂平太のかわりには、この三世次は賭場や旅籠からの収入も高く、百姓の出だから百姓のことはよくわかっているので、百姓から絞りとるだけ絞りとって殿様のお役に立つから代官に任命して欲しい、この金子は挨拶料で、代官に任命してくれたらこの何層倍かの金子を年に4,5回はお届けいたしましょう、とテンション高く独白します。ここまで言い終ると、三世次の下でもがいていた茂平太が動かなくなります。

(酒樽につけて溺れ死にさせるのが「リチャード三世」)

三世次は酒樽から飛び降りるとそれまでとは変わって冷たく「やくざでいくら出世したって天井の高さは知れている。だが御家人になれば、その後は旗本株を買い、それからは金でこしらえた階段をとんとんとん――」と木槌を手にしながら階段の下で階段をとんとんする身振りをします。(最初に閻魔堂で老婆に根岸肥前守と同じ運命と言われた時に、「大工だからとんとんとんの大出世か」と笑った時と同じエアとんとん)そしてそこまで言った時に、階段の上におさちが現れた気配を察知して、木槌を投げ捨て、また階段の下にうずくまります。

おさちは茂平太を呼びながら階段を降り、酒樽に上半身をつっこんで死んでいる茂平太を発見して嘆き悲しみます。そこへ三世次が忍び寄り「お泣きなさい。涙が種切れになった時、新しい希望がわいてきますよ」と親切ごかして話しかけます。

ここからが「リチャード三世」の有名なアンを口説く場面を元にした展開です。アンが自分の義父と夫を殺したリチャード三世に、その義父の柩の横で口説かれて、最初は憎み、唾を吐きかけたりしていたのに、最後にはなびいてしまう不思議な場面です。

 

そして従来の三世次の演じ方と今回は大きく違いがあり、違う解釈になっていたように思います。

流れとしては、おさちが「佐渡の三世次!」と驚き怒ると「ここで折檻をされていたところでぇ」と憐みを乞うように言い「主人を殺したのね!」と唾を吐きかけられて、嬉しそうに「愛しい人の唾は蜜より甘い」と下衆に喜びますが、「妹を殺し、そしてまた主人を殺したけだもの!刀が欲しい!」とおさちが言うと、けだものと言われてまた冷たい目になって、茂平太の刀を拾いおさちに渡すと、胸を開いて(ここで上手前方席だと運が良いとTKBが見えたとか見えないとか・・・)「やってくれ!ひと思いにぐさりと」と言います。

そしておさちが意を決して刀で突こうとすると「なぜあんたはそんなにきれいなのだ?」と話しかけてはぐらかします。こういう殺そうとしてははぐらかすやりとりを3回くらい繰り返し、結局おさちは三世次を殺すことが出来ないという場面なのですが、蜷川版も新感線版も、おさちが刀を振るおうとして三世次がはぐらかすという場面をコメディに演出していました。蜷川版はおさち役の篠原さんがはぐらかされてはずっこけていたし、新感線版ははぐらかされてそこにずっこけるような効果音を入れていたように思います。(若干うろ覚え)

両者は、ここをコメディに演出することで、三世次は計算の上、殺せと言いながらその瞬間にはぐらかしておさちをコントロール、実は死ぬ気などない、自分の弁舌でお嬢さま育ちのおさちなど操れる、お嬢さまに人を殺せるわけないとふんで行った行為と示しているように思います。自分の弁舌(ことば)に自信のある三世次。

一方で藤田版は、ここがコメディじゃなかった。

戯曲にも「おさちは上品にずっこける」とト書きにもあるし、過去の円盤も観ていたから、コメディの場面と思いこんでいたので、最初は「あれ?」って驚いたのですが(コメディにやらないと、ちょっとぎくしゃくする感じ)、シリアスに演じると、これは三世次は死ぬか生きるかの賭けに出ている場面になるなあと。突こうとした瞬間に口説き文句を言って、自分の言葉の力が強ければ、おさちははぐらかされて突くことが出来ないけど、失敗したら殺される、殺されたら殺されたで仕方ねぇや、と。

従来の三世次であれば、自分のことばの力に対する自負と、老婆の「深間にはまる=相思相愛」という予言があるから、おさちに殺されることは想定していない、死ぬ気はないのだけれど、この三世次はお光に拒絶されたことを引き摺っているのか、自分の言葉の力を試しながらおさちを試している感じです。

はたして、おさちは刀を投げ出して「殺せない」と言い、「その刀をもう一度拾い上げるんだ」「出来ない」「でなきゃあ、俺を拾い上げてくれ」という会話になります。

俺を拾い上げてくれとか泣ける・・・。自己肯定感激低のみよたん・・・・。(たしかにおさちは代官の妻だから、現状では身分はずっと上ですが)

その会話をしながら、階段にさかさまに大の字になる三世次。十字架にでもかかっているみたいなイメージなのでしょうか?とにかく逆さになるので着物が落ちておみ足とか(すね毛とか)見えたり、頭に血が上っていって、首が太くなって赤くなるし、足は裸足だし(他はずっとみんなも足袋とか足袋風の肌色のもの履いてたりするのに)セクシーな見どころが満載過ぎて、藤田さんの深い演出にまで思いが至りません。胸元とか汗とか見ちゃうし!みよたん、なんで逆さになった!いいぞもっとやれ!

おさちが自分を殺せなかった、受け入れてくれたと思った三世次、俺は自分で考えているほど醜くはねえのかもしれねえぞ、と考えます。そして暗転、階段で逆さになったまま搬出される三世次。後半の日程の観劇では、この時に小さく笑いながら搬出されている時もありました。これは思い通りに運んだ(おさちを言いくるめて手に入れることが出来た)という笑いではなくて、思ったより自分は醜くないんじゃないかと気づいた笑いかなと思います。

 

 22.百姓の噂ばなし

舞台は墓地。隊長が一人で墓穴を掘りながら、しゃれこうべに話しかけています。上演時間を短くするため戯曲から台詞が削られることはあったのですが、ここでは逆にしゃれこうべに話しかける(そうだろう、しゃれこうべ!とか、あごもないのによくしゃべるなあ、とか)という台詞が増えています。(ここでしゃれこうべを出すのは藤田さん版のオリジナルだったかな・・・。「ハムレット」の墓場の場面を意識されてますね)

しゃれこうべに話しかけると言うテイで、三世次が御家人株を手に入れて代官になり、以前からの金のなる木(賭場、旅籠など)を持ったうえに、良い女房(おさち)を手に入れたこと、三世次の代官としての評判はいたって悪いこと、この秋は凶作なのに年貢は去年より高く、その日暮らしの抱え百姓にまで年貢を課せられたことなどを怒りながら説明します。(戯曲ではここでおさちがまだ三世次に肌を許していないことを述べますが、今回はそこはカットだった様な気がします)

そこへ百姓たちがやってきて、仲間の甚兵衛が三世次に抱え百姓の年貢について直訴したこと、三世次がその甚兵衛の額を蹴ったこと、かっとなった甚兵衛が石を拾って、でも代官に投げるわけにはいかず水たまりに投げたこと、そして泥が飛んで三世次の紋服を汚したこと、三世次が「中根さまの代理人である自分の紋が汚されたということは中根様の御紋が汚されたも同じ」と言ってきたことを報告します。これはえらいことになったとみんなで代官所に向かうことにします。その時、代官所の方角に人足が畳のようなものを運んでいるのを見つけ、なんだろうと言いながら、代官所に向かいます。

 

その⑩に続きます。