★お気楽日記★

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蜷川版「天保十二年のシェイクスピア」感想とシェイクスピア作品の対比その1

さて、視聴した蜷川幸雄さん演出の2005年の「天保十二年のシェイクスピア」の場面とシェイクスピア作品の対比と感想です。

シェイクスピアまったく詳しくないので、色々間違っていたらごめんなさい)

 

また、いちいち場面の説明をしますので、思い切りネタバレします。

2月からの天保をネタバレせずに観たい方はこの後はスル―して下さいませ。

 

******<ネタバレ注意>************

 ほんとにネタバレです!

 

 

天保十二年のシェイクスピア」 

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 1.ぼろづくし雑巾口上

蜷川版では井上ひさし氏によって、ここの口上がカットになり、舞台上のグローブ座を人足達が壊しながら「もしもシェイクスピアがいなかったら」の歌から始まりました。

キャッチーなメロディーの歌です。

(今年の天保はどんな曲になるのかしら)

 

2.想像力はすべての創造主

百姓の隊長役の木場勝己さんが狂言回しとして、当時の百姓の状況などの説明をします。

論文によるとここには「ヘンリー五世」が使われているとか。

 

3.傍白三人娘

ここは「リア王」の場面。(論文によると「冬物語」「終わりよければすべてよし」「じゃじゃ馬ならし」もらしいのですが、私にはよくわかりません)

 

清滝村を仕切っている鰤の十兵衛(吉田鋼太郎)が三人の娘のいずれかに財産を譲ろうとし、長女お文(高橋恵子)次女お里(夏木マリ)の甘言に惑わされ、本当に自分の事を思ってくれていた口下手な末娘のお光(篠原涼子)を追い出してしまうという、「リア王」のパロディ場面。

ブリテンの王のリア王→鰤(ぶり)の十(テン)兵衛、ゴネリル→お文(これがどうしてお文になるのだろう?)、リーガン→お里(音読み:リ)、コーデリア→お光(音読み:コウ)と名前ももじられています。

実際にコーデリアに腹を立てて追いだした「リア王」と違って、天保では思いが掛け違ってはからずも追い出してしまうことになっています。(また十兵衛により、お光は実の子ではなく捨て子たっだことも傍白されます。お光本人だけはそれを知りません)

「こう出りゃあ(コーデリア)そう出たか」と井上氏お得意の言葉遊びも。

 

この場面、戯曲で読んだ時には特に面白さは感じなかったのですが、実際に役者さんが演じると面白かったです。

セリフの間合いとか傍白の仕方とかそういうのが面白くするのですね。

(戯曲がぴんと来なかったのは戯曲の問題ではなく、私が舞台観劇の経験が少なくて、きちんと戯曲を脳内で再生できなかったからと思われます)

夏木マリさんのメイクがすごい(怖い)です…。お歯黒です。(なぜこのメイクに? 美人の長女と対比しやすくて良かったかもしれないけど)

隊長役の木場さんのセリフも聞き取りやすくて良かったです。長い説明が多いので、セリフが聞き取れないとつらい。

 

4.おとこ殺し腰巻地獄

ここは「リチャード三世」「マクベス」「ロミオとジュリエット」が使われていました。(論文には「リア王」「ジョン王」「冬物語」とも書いてありました)

 

先ほどから三年たって天保十二年。ここで主役の佐渡の三世次(みよじ)が登場します。

三世次はリチャード三世からもじった名前で、リチャード三世同様、せむしで足を引きずり、醜いという設定です。

鰤の十兵衛から財産を譲られたお文とお里は犬猿の仲で、それぞれ「よだれ牛の紋太(お文の旦那)一家」「代官手代の花平(お里の旦那)一家」と名乗り、いがみ合っています。

これは「ロミオとジュリエット」のモンタギュー家(紋太、牛)とキャピュレット家(花平→かへい→きゃぴゅ。ただし「はなへい」と読まれていました)をもじっています。

また代官手代は、「マクベス」の殺される王の名前のダンカンのもじりです。

この両者の旅籠がお客を取り合ったり、女郎たちが客引きしている中、せむしで足も引きずり、顔にやけどの跡がある三世次がやってきて、もともとこの清滝村の百姓の出自だったが落ちぶれたという身の上を語り、この両者の争いを利用してのし上がろうと独白、「マクベス」の有名なセリフの「きたないはきれい きれいはきたない」をモチーフにした歌を歌いながら、女郎の一人と濡れ場を演じます。

 

かなり性的な演出で、女郎の女優さんの胸が丸出しでもみしだかれたり、濡れ場の演技もそのものなので、一生さんがこれをやるのか…と。(演出によって性的な度合いは変わると思いますが)

(あと一生さんは火傷メイクがもっと控え目でいいわ(笑))

 

5.赤ん坊と陰謀は女の陰部から生まれる

ロミオとジュリエット」「マクベス」「ベニスの商人」「アテネのタイモン」「リア王」「ハムレット」と論文にありました。

 

両家がいがみ合っているという設定が「ロミオとジュリエット」、隠居した父親が邪険に扱われているのが「リア王」、弟が兄を殺して兄嫁を(のちに)妻にするのが「ハムレット」、ダンカン(代官手代)を殺そう(未遂)というのが「マクベス」、鰤の十兵衛が殺される時の掛け声の「バッサーニオ」が「ベニスの商人」です。

(あと、元権力者の十兵衛がお金の無心をするところが「アテネのタイモン」だそうです)

この場面はお文とお里が互いに旦那に、敵に先んじて攻撃しようと提案するけれども、旦那さん達が日和見なので旦那を見限って、お文は旦那の弟で浮気相手の九郎治に旦那殺害を、お里は同じく浮気相手の用心棒の尾瀬の幕兵衛に旦那殺害を依頼します。

ハムレット」で、王を殺した王の弟のクローディアス→九郎治、オセロー→尾瀬マクベス→幕兵衛です。(尾瀬の幕兵衛はオセロー+マクベスの役です)

紋太の殺害は成功しますが、花平殺害は誤って十兵衛を切ってしまい、失敗に終わります。

尾瀬の幕兵衛役の勝村政信さんがかっこいい。(というか三世次は汚れ役だし、王次の藤原竜也さんもまだ出てこないから、目の保養系が勝村さんのみ(笑))

 

6.老婆は一日にしてならず

マクベス」「リチャード三世」「シンベリン」「尺には尺を」「アントニークレオパトラ」が使われているらしいです。

(「シンベリン」は戯曲では無理やり?一節が隊長のセリフに出ているのですが、蜷川版にあったかしら?)

 

謎の老婆が、幕兵衛が花平一家の親分になると予言します。(「マクベス」)

それを盗み見ていた三世次も自分について予言を求め、「大出世するが女が鬼門。ひとりでふたり、ふたりでひとりの女にはまったら畳の上では往生できない」との予言を得ます。

(「リチャード三世」は自分が醜いと卑下するセリフ?「尺には~」「アントニー~」は詳しくなくてわかりませんでした)

 

7.大事の前の障子

マクベス」「尺には尺を」「ヘンリー六世」「リチャード三世」「ハムレット」を使用。

メインは「マクベス」で、ついに幕兵衛(マクベス)が代官手代(ダンカン)の花平を殺害します。

殺害後罪の意識に駆られて「幕兵衛は眠りを殺した」という幻聴を聞くのも「マクベス」、手についた血が落ちないというのも「マクベス」、奥さん(愛人)の方が強くて励ますのも「マクベス」。

「料理に使う鳥にしても、それを殺す季節というものがあるのに」というセリフは「尺には尺を」からだそうです。

三世次の「ことばにはどくがある」の歌は「ハムレット」のセリフから。

しれっと論文やパンフレットに「リチャード三世」が使われてるってあるのですが、どこだかわからない。(まあ三世次が出たらどこかに使われているのでしょう。神様はあっしの口を達者に作った代わりに容姿では手を抜いたとか、黒い悪事を隠すには美辞麗句か大声、というセリフの辺りかしら)

(ヘンリー六世も不明)

ここで三世次は花平一家に仕えることになります。

 

長くなったので続きます。→その2