★お気楽日記★

アリとキリギリスでは断然キリギリスです。 うさぎとかめなら、確実にうさぎです。 でも跳ねる趣味はありません。

蜷川版「天保十二年のシェイクスピア」感想とシェイクスピア作品の対比その2

その1からの続きです。

 

各場面の説明をしますので、思い切りネタバレです。

ご注意ください!

 

******<ネタバレ注意>********

 

 

8.トカトントン

「お気に召すまま」「恋の骨折り損」が使われているそうです。

 

棺桶職人の佐吉が、江戸での修行中に恋に落ちた吉原の浮舟太夫について、棺桶をトントンと作りながらそのリズムに合わせて惚気ます。

(「お気に召すまま」でも恋煩いのオーランドーが、こんな感じの韻を踏むような詩があるらしい?)

その他のシェイクスピアがどのように使われているかは不明。

この明るくて純朴な佐吉と浮舟太夫が、後に「ロミオとジュリエット」の悲劇パートを担います。

 

9.隠亡百姓の第一の噂ばなし

ハムレット」が使われています。

 

 百姓たちが副業で(最近死人がたくさん出て儲かると喜びながら)墓掘りする場面。百姓の隊長が紋太一家の跡取り息子のきじるしの王次について語ります。

「きじるし」は気が触れたことの隠語で、ハムレット=気が触れた王子→きじるしの王次と名前がもじられています。

その王次は、紋太一家と交流のあるヤクザの飯岡の助五郎のもとで修業していたのですが、父親の訃報を聞いて仇討ちの為に帰ってきていました。(仇は花平一家と思っている)

隊長がその説明をしたところに一人の百姓が「(墓掘り作業に)遅れて済まない」とやってきます。彼は幽霊のふりをして小遣いを稼がないかと三世次に頼まれたと語ります。

この百姓の役は殺された紋太を演じた西岡徳馬さんが演じています。

(父王の亡霊が出て死の真相を語るのは「ハムレット」)

 

10.浮気もの、汝の名は女

ハムレット」がメイン。あと論文には「恋の骨折り損」「シンベリン」「ヘンリー四世」「ヘンリー六世」とありましたが、どう使われているかは不明。

 

やっと!王次(藤原竜也)が出てきます。可愛くて能天気な王次です。

取り巻きたちと女郎を抱きながら「あまきもの 処女の唇~」の歌を歌います。(かなりシモネタの歌詞です)

藤原さん、可愛い…のですが歌は…とにかく頑張って歌いました感(笑)。あまりお得意ではない様子でした。

王次が女郎と事に及ぼうとすると、女郎から許嫁のお冬の話が出ます。

お冬はオフィーリアのもじりです。

王次はお冬は処女だからまだ自分の鍛えたいぼ槍(!)を受け止められないので、女郎と手合わせするのだと自慢していると、そこに三世次に雇われた百姓(西岡徳馬)が亡霊に扮して死の真相を語ります。

ここは思いっきりコメディの場面で、プロンプターの三世次に言われたセリフをオウム返しにする百姓が、紋太の死の真相に驚いて「そうだったんですか」と言ってしまい、王次に「俺のセリフをとるな」と言われたりします。

亡霊の芝居はボロボロでしたが、王次はおばかちゃんなのでボロに気づかず、父親が実は母親とその愛人だった父の弟に殺されたという事実を知らせることに成功しました。

 

11.問題性の連続

ここも「ハムレット」です。

 

紋太一家では九郎治が手下たちに向かい、自分がお文の夫となってこの一家を継ぎ、花平一家に仇討すると宣言しているところに、女装した王次がおかしな様子でやってきます。

九郎治が王次に、修行先の助五郎親分から助太刀するようなことを言われなかったかと尋ねても「俺があんたの息子か息子ではないかそれが問題だ」とトンチンカンなことを呟きます。

この場面では「○○か××かそれが問題だ」というセリフで、喜劇的な場面が続きます。

お文と九郎治は、王次が紋太の死の真相に気付いたのか気付いていないのかが問題だと、「ハムレット」同様、王次の許嫁のお冬の父で手下のぼろ安(ポローニアスのもじり)に、お冬を使って探らせることを命じます。

ここでの見せ場は、王次が明治時代からの色々な「to be or not to be~」の翻訳を諳んじるところです。藤原さんと隊長役の木場さんのテンポが良かったです。

そこへお冬(毬谷友子)がやってきて、「ハムレット」の「尼寺へ行け」と同じくだりになり、最後に王次が盗み聞きしていたぼろ安を九郎治と間違えて殺してしまう流れです。

(鰤の十兵衛といい、ぼろ安といい、死ぬ時にギャグが入るので観客席に笑いが起こります)

そして毬谷さん、藤原さんより20歳位年上だと思うけど、声も可愛いし、やはり上手いです!

今回私は一番毬谷さんの演技に惹きつけられました。

 

12.賭場の場のボサノバ

ロミオとジュリエット」「ペリクリーズ」「冬物語」「シンベリン」「ヘンリー五世」「ヘンリー八世」が使われているそうです。

 

紋太一家の賭場でかっこいい女ばくち打ちがイカサマを見抜きます。実は女ばくち打ちは3年前にいなくなったお光で、お光はお里たちの花平一家が懇意にしている笹川の繁蔵親分のもとに厄介になっていて、姉たちの父に対する仕打ちの真偽を確かめに帰ってきたのです。

これだけだとお文もお里もお光の敵ということになりますが、お光は笹川の繁蔵親分に厄介になっていたので、笹川派のお里の身内ということになり、敵対するのはお文の紋太一家となります。

王次は紋太・牛(モンタギュー)家、お光は花平(キャピュレット)家の一員なので敵同士となり、ここは「ロミオとジュリエット」です。

この賭場の場面のお文とお光の言い争いで、お光は自分が捨て子だったことを知ります。(「冬物語」と「シンベリン」が捨て子ネタだそうです)

王次は一目ぼれしたお光が刀が無くてピンチなのを見て、自分の長脇差を投げてあげます。

ここで百姓の隊長が「時よ止まれ」と命令し、刀も空中で止まります。(「ペリクリーズ」「冬物語」が時空間をコントロールする場面があるらしいです)

 

13.時よとまれ、君はややこしい

「間違いの喜劇」「十二夜」「ペリクリーズ」「冬物語」「じゃじゃ馬ならし」が使われています。

 

時を止めたまま(「ペリクリーズ」「冬物語」が時空間をコントロールする)、隊長がお光の出生の秘密を語ります。

実はお光は双子の捨て子で当時の代官に拾われて、一人はおさち(幸?、音読みがコウ)と名付けて代官が育て、お光は当時代官所の手代だった鰤の十兵衛にもらわれたのでした。

やがておさちは土井茂平太という年の離れた武士に嫁ぎ、その茂平太が清滝村の代官に就任してもうすぐ清滝村にやってくることになっています。

(この双子という設定が「間違いの喜劇」「十二夜」、男勝りな子(お光)と従順な子(おさち)の姉妹が「じゃじゃ馬ならし」のようです)

お光が舞台上の早変わりでおさちに変身し、お光とはうって変わっておしとやかな若妻らしく愛の歌を歌いながら客席をまわります。(でも割ときわどい歌詞)

 

14.焔はごうごう、釜はぐらぐら

マクベス」「ロミオとジュリエット」「夏の夜の夢」が使われています。

 

魔女たちが会合しているという設定が「マクベス」、敵同士の王次とお光を恋仲にして(「ロミオとジュリエット」)面白い見物にしようと魔女たちが浮気草(惚れ薬)を二人に振りかけるのが「夏の夜の夢」から来ています。

魔女が煮ている釜の中から王次とお光が登場しますが、意識が無く浄瑠璃の人形のように操られる場面です。

 

15.王次よ、どうしてあんたは王次なの

ロミオとジュリエット」「じゃじゃ馬ならし」「トロイラスとクレシダ」「アントニークレオパトラ」「ヘンリー六世」「オセロー」が使われています。

 

お光に惚れてしまい花平一家に討ち入る気の無い王次に、紋太一家の若い者達の怒りが爆発、討ち入らないなら王次を斬ると騒がれ、仕方なく王次は幕兵衛の留守に花平一家を襲います。

王次の見せ場の殺陣の場面です。

バタバタと斬り倒し、残るはお光だけとなりますが(お光は剣術の名手というのが男勝り=「じゃじゃ馬ならし」)お光は王次を見ると魔女の魔法で恋に落ち、二人はバカップルのようにラブラブで、「ロミオとジュリエット」のバルコニーのシーン(どうしてあなたはロミオなの?)のパロディを演じます。

怒った紋太一家、花平一家の若い衆たちがそれぞれ味方だった王次、お光を斬ろうと近づいたところで、九郎治、お文、幕兵衛、お里らが登場、新任の代官(おさちの夫の茂平太)が赴任したため、今は斬りあいはまずいと皆を止めます。(この辺の「刀を引け」の辺りが「オセロー」の場面、最後に手打ちになって当てが外れた三世次が毒づく「阿呆どもの平和なぞ犬に食われてくたばるがいい」というセリフが「トロイラスとクレシダ」の中のセリフを連想させるそうです)

 

ここで一幕終了です。

その3に続きます。

 

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