★お気楽日記★

アリとキリギリスでは断然キリギリスです。 うさぎとかめなら、確実にうさぎです。 でも跳ねる趣味はありません。

野田地図(NODA・MAP)「フェイクスピア」シーンごと感想③

 野田地図(NODA・MAP)「フェイクスピア」各場面の感想、続きです。

f:id:crearose:20210630004509j:plain

 

crearose.hatenablog.com

crearose.hatenablog.com

monoがその陰に隠れようとしていた烏をひっぺがし、「いた!お前だ!」とシェイクスピアはmonoを発見します。

「いえ僕はあなたを呼んでません」「そのヨンデマセンは、私をか、それとも私の作品を読んでませんか、どっちだ」「両方です」「ありえな~い」

この場面の野田さんのはじけぶりがすごいです。

そして、monoの顔を見て、「顔に、”お前(=シェイクスピア)何しにきた”と書いてあるが、お前たち(monoと楽)こそ、この恐山に何をしに来た、お前たちは同じ悲劇を背負って山を登ってきた(何かを背負っているアクション)」と言います。

monoは「悲劇を背負ってなんて勝手に僕の運命を決めないでください」と抗議しますが、「この恐山は、背負った悲劇を、背中から降ろすために登ってくる山だ(背負ったものを降ろす身振りのオーバーアクションしながら)。そしてお前たちは、身のほど知らずにも、シェイクスピアの四大悲劇を(指で4を示す)背負ってきた。四大悲劇を呼んだんだ。呼んだ(4の形にしていた指を招き猫のように「呼ぶ」動作をする)悲劇だ」と言います。

その四大悲劇は「リア王」「オセロー」「マクベス」そして「はみゅほにゃらら・・・(ハムレットと言うのをまだ登場していないためか、言葉を濁す)」で全てタイトルロールは男性の名前であり、悲劇は男にしか起こらないということだと。(ここの部分、なんでジェンダーの話が出たのかよくわからず・・・)

「男どもが呼んだ四大悲劇は、四つのタイプに分かれます、今日のあなたはどのタイプ?」、mono「血液型の話ですか?」で客席の笑いを取りながら、さらに「リア王」は老いという年齢の悲劇でAGEのA型、「オセロー」は妄想OBSESSIONのO型、「マクベス」は野心のAMBITIONのAB型の悲劇だと説明します。そしてmonoと楽が呼んだ悲劇はB型、BORTHER、苦悩の「ハムレット」であると言います。生きるべきか、死ぬべきか、To be or not to be,とぉーべー、おあ、のっととぉーべぇー(台詞の呂律がかなり怪しい感じで言うのでみんな笑う)と。

(この時はまだみんな笑っていますが、ここにもTo be=飛べ、と飛行機を連想させる言葉が入っています)

 

開幕1週間めくらい?から、この個所で一生さんが野田さんがあまりにおかしくて笑いをこらえきれず、素で笑っていたと言われるようになりましたが、一生さんは舞台上でこらえきれず素で笑うということは無い人だと思うので(しかもその後毎日きちんとここで「素になって笑う」、これは素になって笑う芝居をしている、もしくはこの部分では素に戻れという指示が演出家から出ている(もしくはそう話しあった)と思います。素になって笑っているのをあわてて隠すテイで、ハイカラーのブルゾンの首の部分で口元を隠す芝居も入れてくるようになりました)

恐らくこれは、観客を巻き込む、調子に乗せるために舞台上の役者が率先して笑っているんだろうなと。(ラスト20分のクライマックスに向けて、観客も不謹慎の共犯者にするためか)

(あと、後半はどうしてもリピーター率が増えるので、CVRの台詞をネタにした部分での笑いが減る分、こういう安定して笑えるシーンの笑いを増やしたいというのもあるんだろうなあ)

 

ブレヒト幕が走ると、シェイクスピアはアタイに入れ替わっています。

 

monoはアタイに、彼女が伝説のイタコになったあとシェイクスピアが乗り移っていたと告げると、彼女は「アタイ」ではなく「伝説のイタコ(乗り移り中)」だというので「失礼しました。伝説のイタコさんがいらっしゃるなと思ったら、今度はシェイクスピアにのりうつりました。飛行機をトランジットするように」と言い替えます。

「飛行機」「トランジット」とやや強引に飛行機関連のワードを出しています

 

 「そしてしまいには――“お前たちの悲劇はハムレットなのだ、To be or not to be,とぉーべー、おあ、のっととぉーべぇー”(大げさな身振りも交えて野田さんの真似。モノマネ得意な一生さんなので上手い(コロッケさん風誇張?)。観客笑う)」

(ここ、千秋楽に近づくにつれてどんどん激しくなり、白石さんが笑いすぎて台詞がで無くなることも)

 

monoが、アタイ(伝説のイタコ)に、シェイクスピアにmonoと楽の悲劇はハムレットであると言われた話をすると、気を失って上手柱に持たれて座りこんでいた楽が起き上がり、「亡霊め!」「どこに連れて行こうというのだ?もう先へは行かないぞ」と急にハムレットの台詞を言いだします。

亡霊め、の台詞を聞いたmonoは、すばやく舞台前方から八百屋舞台の奥の高いところに移動し、客席に背中を向けます。

そして「心して聞け、ハムレット・・・ハムレット・・ハムレット・・・」と、父王の亡霊になります。「時間はわずかしかない・・しかない・・しかない」「まもなく煉獄の炎に再び我が身を苛まれねばならぬ・・・ならぬ・・・ならぬ」と語ります。

客席に背中を向けているので最初は気付きづらいですが、やがてハムレット(客席)の方に向き直ると、この台詞の亡霊っぽいエコーは、一生さんがセルフエコーで語尾を繰り返していることがわかり、客席爆笑。

今まで一生さんには女性の霊が降りていたので、今回もオフィーリアになるのかと期待していたのですが(尼寺へ行け!も観たかったなあ)父王の霊でした。(ちゃんと考えればmonoと楽の背負った悲劇なのだから、片方が女性になる訳ないですね。(これが先ほどの「悲劇は男にしか起こらない」につながるのかしら?)

 

monoが「わしはそなたの父の霊だ」というと、楽は「パパ・・・そうか、僕はパパと会いたいんだ」と気が付きます。お前たち親子なのかい?と驚くアタイ(伝説のイタコ)。

 

ブレヒト幕が走ると、アタイは羽ばたく仕草をし続けて立っており、楽とmonoは舞台手前にしゃがみ、会話します。

monoが「あの伝説のイタコ、また空飛ぶ何かに乗りうつった」と言いながら、夜の怪物がやってくることに怯える楽(3歳児設定?)に「パパは強い」と言って安心させます。ここが橋爪さんの3歳児の芝居もナチュラルだし、今までむしろ不安定な青年だったmonoが素敵なパパに見える場面です。

(ここで出てくる「トネリコの木」は北欧神話世界樹からの連想?)

「この恐山のワルプルギスの夜から、お前もパパも、二人して息をして出ていかないと、シェイクスピアの物語にからめとられる。パパは亡霊じゃない。恐山の死者じゃない。来るなら来い、夜の怪物たち。だって、楽、パパが生きている方がいいだろう」と言って楽に微笑みかけるmonoパパ。

 

(7/18追記:「息をして出ていかないとシェイクスピアの物語にからめとられる」というのは、この後の星の王子様は作中人物だから息をしていないにつながるだけかなあと思っていましたが、これ、後の部分(ブログ④)で、楽も自殺願望や、自分の家族の事や父親が亡くなったことなどを不自然に忘れている=自殺を考えるようになり半分死者の世界に入っているからではないか、と書いたのですが、可能性として楽は電車に飛び込むのは断念したとしてもなんらかの手段で自殺を図って(睡眠薬とか死にづらい手段で)、今病院で、命を取り留めるかどうかの瀬戸際にいる可能性もあるな、とふと思いました。息をして出ていく=息を吹き返す(意識を取り戻す)。で、ラストで意識を取り戻してmonoパパ安堵。個人の感想です)

 

再びブレヒト幕で、アタイが星の王子様に代わっています。

白い粗い骨組の尾翼(背丈サイズ)を引き摺って持ち、星の王子様は「出てこーい!シェイクスピア!くそ」と言いながらやってきます(あっちゃんが可愛い)。シェイクスピアがのりうつった飛行機の尾翼に引っかかって不時着したのだと。

星の王子様は作中人物だから呼吸をしていないというので、楽は星の王子様に顔を接近させてしばしの間、息をしていないことを確かめます。(笑いが起きる場面)

楽が確かめている間、自分も何となくそーっと二人に近づくmonoが可愛い。(初日からはやっていなかった動作かも)(千秋楽に近づくにつれ、ここの顔を近づけている時間が長くなり、monoが途中で「そろそろ・・・」という感じの身振りで止めるようになりました)

 

f:id:crearose:20210718190631j:plain

(舞台写真は篠山紀信さん撮影の宣材写真転載させていただきました)

 

照明でお星様の形が舞台の床にたくさん映し出されて幻想的です。

 

星の王子様が、空気で息をしない代わりに、世界と呼吸するメタファーになれると言うので、メタファーとは何かとmonoパパに聞く3歳児の楽。

monoは王子様の王に点がついて「星の玉子様」になったら作中人物の運命が変わると説明し、星の王子様が差し出した手紙(玉子にひび割れがあったというクレームの手紙)を楽が読み、読めない漢字はmonoが教えてあげるという微笑ましい親子の場面。(ここの「星の玉子様は遠回しの苦情と言うメタファーという流れが今一つわかりませんでした)

楽は星の王子様に「星の王子様は何のメタファーなの?」と尋ね、王子様は「こころさ」と答えます。

 

この台詞で、今まで温かく楽を見守っていたmonoがパパの顔からまた不安げな記憶喪失の青年のように、二人から離れてふらふらと尾翼の後ろに回り込んで思案顔になります。

尾翼の横では楽と王子様が胸の辺りを撫でて「心ってどこにあるって聞かれて、ここらあたりに心当たりがあるだろう。だから、ここらをこころというんだ」という会話がなされ、王子様は「こころはね、コトバという葉っぱの上に置かれた水滴。言の葉が消えれば、こころも消える」と言います。

恐らくこの王子様の台詞が、monoに何かを思い出させるものだったのでしょう。

自分の伝えたかった言葉が伝えられずに消えてしまったら、自分の心も消えてしまうという不安?=OPの「何のために誰もいない森で私は言葉を紡いでいるのか」)

 

その不安を消すように(?)「こころってキザだな」とシニカルに言うmono。

王子様はmonoの顔に「何しに来た、キザなこころ」という遠回しの苦情が書いてあると言い、自分はmonoの裁判で弁護人になるために来たのだと言います。

(劇中、monoは「なんだその顔」と言われて顔にこう書いてある、とシェイクスピアと星の王子様に言われますが、これは「声(目に見えないもの)」との対比か何かでしょうか(見た目で推測される)。それともCVRの「声」も伝えたいことは直接言っていない(息子の名前も呼べず言葉も残せなかった)が、そこから聞き手が推測して意味を取るということかしら?)

 

裁判?と驚くmonoに「君は言葉ドロボーなんだろう?君が盗んだのは目に見えるコトバ、それとも目に見えないコトバ?」という王子様。「目に見えないコトバって?」と聞くmonoに「声さ」と。

どっちだろうと考えこむmonoに、先ほどの手紙を読んでいた楽が「でもほらパパ、ここ、”一番大切なものは目に見えない”って目に見える言葉で書かれているよ」と言うと「そうか、思い出した!この匣の中にあるコトバをお前にあげるんだ!そう思って、パパは盗んだんだ。あの途方に暮れた自転車泥棒のように、これを」とmonoは匣を楽に手渡そうとします。

 (この「途方に暮れた自転車泥棒」というのは1948年のイタリア映画の「自転車泥棒から来た台詞だと思いますが、私は未見の映画で、wikiであらすじを見てもよくわからず。父親と息子が大切なもの(食べて行くための仕事に必要な自転車)を盗まれて途方に暮れて、追いつめられた父親が他人の自転車を盗んでしまうことからの連想?)

 

そこに烏の一群がやってきて、横から匣を奪おうとします。

「危ない!」と星の王子様が匣を取り戻し、「これは江の島海岸の弁当箱(ここで鳥に弁当取られる観光客続出する)とはわけが違うぞ!」と言って(客席笑う)、monoに投げ返します。

「ありがとう!」と礼を言ってmonoは「パパはこっち(下手=死者の道)から、楽はあっち(上手=生者の道)から。この夢から覚めたら会うよ。ダブルブッキングした日のように」と、二人は別々に烏から逃げます。

 

楽は上手の道に逃げ、照明が変わりクラブのような照明に、星の王子様が持ってきた尾翼の骨組みはバーカウンターに見立てられて烏の一人がバーテンになりシェイカーを振り、烏たちはクラブで踊る客に、そこにアブラハムと三日坊主も加わります。音楽はカルメンのアリア(ハバネラ)がクラブミュージックになってかかります。

 

下手にいったん逃げたmonoですが、踊る烏の集団にそっと紛れ込むと、そこへアブラハムと三日坊主がやってきます。両サイドを二人に挟まれ逃げられないmono。

三日坊主がタバコを差し出すのに「いや、僕は吸わないんで」と断りますが、「持ってるだろ?ハッパだよ。神様からのハッパ、言の葉」と怪しい薬の売人であるかのように二人に話しかけられ、僕らは君を捕まえようとしている烏とは違う、泥棒仲間(盗んだ大根ゼリーを見せ)、仲間の詐欺師だと言って探知機を見せて会話されたりするうちに、気を許して、探知機が反応するのは自分ではなくこれかも、と、匣を見せようとします。しかし、やはり止めようと逡巡していると、オトリ捜査だ!と一斉に烏たちに押さえこまれ、布団をかぶせられます。(かなり前方席だと聞こえる、ここの一生さんの抵抗する声がエロいと興奮するイセクラ続出・・・・ダメですよ・・・・)

 

「所持していたぞ、ハッパはこの匣の中に入っている!」「午前3時33分、恐山山頂、山小屋クラブで犯人の身柄を確保しました」とアブラハムたちが匣を神様のもとに持っていこうとすると、そこに白い烏(星の王子様が白いレインコートを羽織った感じ)が現れ、匣を奪います。

白い烏は八百屋舞台の上へと走り、匣を両手で持ちながら左右に手を振って飛行しているように見せます。

「なんて飛び方してる」「山だ、山にぶつかるぞ」と驚くアブラハムと三日坊主。

八百屋舞台の上から、2,3脚のキャスター付き椅子が坂を転がして落とされます。

 

これは白い烏=日航を表わしていると思います。飛行機は白いですし、烏ではなく鳥と考えれば白い鳥=鶴=JALのマークです。烏という文字が鳥に1本足りないというのも、尾翼が欠けた飛行機の象徴?

何度か匣を落とす場面(からの捜索)が繰り返されるのは、事故機から落下したCVRを捜索するメタファーでしょう。そしてこの場面では椅子が落とされ、次に白い烏が飛ぶ場面ではトランクが転がして落とされましたが、これも事故機のメタファーかと。

さらに「なんて飛び方してる」「山だ、山にぶつかるぞ」という台詞も、JAL123便がダッチロールしているのを目撃した人の発言だったような気がします。

 

 烏たちに「アホーアホー」と煽られて、白い烏は「僕はアホーじゃなーい!」と叫び、その拍子に持っていた匣を落としてしまいます。(実際には両手で持って左右に振っていた匣を、後方に放り投げます。そのタイミングでテグスに吊った匣が舞台前方に降ろされます。落とした匣がそこに落ちた、というのと、次の場面でそこに匣が必要なので(笑))

 

「あいつ、口を開けたから、咥えていた匣を落っことした」「やっぱりアホだ、アホーアホー」と言われ、白い烏は「大切なものは目に見えないって僕をバイトで雇っている人が言ってたから、多分その匣、目に見えているからそんなに大切なものじゃないと思うんだけどぉ~」とうそぶき、三日坊主が「匣を落としてあのアホー、責任転嫁か!」と言うのに「三日坊主の怒りに火を付けた」「責任点火だ!」という言葉遊びが入り、「あの匣、どこに落っこちた」「山の中?」「いや、ここは恐山」「死者の夢の中だ」と言って(この間に舞台前方に布団蒸しにされていたmonoはさりげなくちょっと奥に移動して)、ブレヒト幕が走ると、幕の向こうは大勢の人が布団かぶって雑魚寝している場面になり(ここの早変わりすごい・・・)舞台前列中央部分で寝ていたmonoが「うわぁっ!」と悪夢?から跳ね起きます。(その上手側隣には楽が寝ています)

 

この場面、ブレヒト幕が走る間にこんなにたくさんの人が布団かぶって寝ている早変わりするなんてすごいなーと呑気に感心していたのですが、そこまで頑張ってみんなが寝ている場面を演出しなくても良いような気もうっすらしていて、そうしたらSNSでの感想で「日航機事故のご遺体の暗喩ではないか」とおっしゃっている方がいてちょっとぞっとしました・・・・。

 

続きます。

 

crearose.hatenablog.com