★お気楽日記★

アリとキリギリスでは断然キリギリスです。 うさぎとかめなら、確実にうさぎです。 でも跳ねる趣味はありません。

野田地図(NODA・MAP)「フェイクスピア」シーンごと感想⑤

 野田地図(NODA・MAP)「フェイクスピア」各場面の感想、続きです。

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 サーニット粘土で作ったイセフキンちゃんとポスターの記念撮影。

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(ピンクのベロ付き)

 

(続き)

ト書きには「mono、大木の下で眠る」とあるのですが、眠るというより力尽きて気を失う感じでした。

そしてブレヒト幕が走ると、monoは布団で寝ていて、他にも布団で数名寝ています。(さっきの場面でイタコが寝ている時よりは少ない。楽とアブラハムと三日坊主だけだったかな?)

 

monoは飛び起きると、匣が消えたと騒ぎます。隣で寝ていた楽は起き上がり「なにが消えたの」と冷めた感じで尋ねます。

(橋爪さんは3歳の楽と69歳の楽と演じますが、反抗的な高校生ノリの楽もあるような・・・)

そして、「がんばれがんばれ」「気合を入れろ」なんて時代遅れの言葉で、死のうと思っている僕の気持ちを引き留められると本気で考えているのかと言うので、monoは「お前、反抗期か?」とムッとして、客席の笑いを誘います。

 

楽は、そんなことより何でパパが死んでしまったのか、それを知りたいと。

「生意気言うな、お前は父親の背中だけ見ていればいいんだ」と言って、monoがちらっと背中を楽に向けるのが(向かい合って話していたところからの瞬間回転しての背中見せ)可愛いったらない。

可愛いから見過ごされがちだけど、父親の死因を知りたいのが何故生意気になるのかしらと思いましたが、これはその前の時代遅れの言葉で引き留められないにかかるのかな?(そしてmono自身この時は自分の死因を覚えていなくて、生意気言うなとごまかそうとしているのでしょう)

 

言い争いながら「初めての親子喧嘩だ」と気付いてちょっと照れる楽。monoはややむっとしながら「パパは愚鈍な魂かもしれない。あの匣を探しに下山する。取り返して、それからお前に贈呈する。それだけだ」と言うと、下手袖に向けてズンズンと歩きだし、その背中に楽は「年寄り!リア王頑固一徹!」」と悪口を言います。

その瞬間、monoが「そうか」とくるっと踵を返して楽に向かってくるので、楽は慌てて「あ、ちょっとごめんなさい、言い過ぎた」と否定します。

 

しかし楽のそんな言葉にはかまわず「楽、僕は君の父の亡霊だったからといって、もう死ぬものだと決めていた。この盂蘭盆が終わったら盆から先には、消えていう魂だと諦めていた。だめだ。僕は生きる……何を勘違いしていた。あの匣は、ただ僕と君だけのものではない。はっきりとしてきた」とまくしたて、そばで布団をかぶって寝ていた三日坊主とアブラハムを起こします。

 

後になって、アブラハム副操縦士、三日坊主が航空機関士、オタコ姐さんが客室乗務員だったことがわかりますが、この時点でmonoはCVRが自分だけのものではなく、彼らのものでもあることを思い出します。

(2回目の森で神様が目を瞑る話の場面で一生さんが声色を色々使い分けていたの、神様がmonoで私が野田さんとか、主語が変わるのを表わしているのかなと思いましたが、CVRに収められている声がこの4人のものであるということを表わしていたのかもしれません)

 

 monoは二人に、僕たちは仲間で、あの匣を盗もうとしたのも自分のもののような気がしたからだろう、一緒に僕たちの匣を探しに行こうと誘います。

この会話で「人を喰ったような顔をして」と、monoはまた顔の話をされます。

きっと野田さんの中で「顔を見て、見た相手が心情などを推測する」というのが意味があることなんでしょうね。(「本当に大切なことは目に見えない」というフレーズに対抗するのか、それとも楽に贈呈するCVRも、直接メッセージを述べていないけど、それを聞いて心情を推測するという共通点?)

 

 monoはいいことを思いついた子供みたいにウキウキと「こちら(上手)の道を下りて行こう。何度も同じところへ戻ってきてしまうのは、あの道(下手)を下りているからだ。またあの死者の道を下りて行ったら同じ轍を踏む」と身振り手振りで言い、アブラハムと三日坊主に自分を「言葉ドロボー」と追いかけてくれるように頼みます。「お得意の烏の真似をして。オトリ逮捕だ」と嬉しそうに手をパタパタしてトリの真似をします(可愛い。monoって基本的に可愛い子。クラスでお調子者の男子のグループの3番目くらいにいる感じ。こんな子が幸せなパパになってパパらしくなったねーって感じだったのに、ある日突然524人の命を背負わされたキャプテンになって、運命と戦わなくちゃいけなかった悲劇)。

 

追われればあの匣の落ちた場所に自分は追い詰められるだろうというmonoに、逮捕されて裁かれると心配する使者二人。

「そうだ、捕まって神様の裁きに出ていく。神様と対峙してやるんだ、闘ってやるんだ。楽、パパは目の前の「死」から逃げない。生きてみせる。だって楽、パパは生きていた方がいいだろう」とハイになっているmonoに、楽は「うん…でも今パパが下山したら、僕の同級生はどうなる?」とアタイの心配をします。

ここの温度差、リアルだなあと思いました(笑)。息子の方はまだパパがいなくなってしまう現実感が無くて、同級生の方が気掛かりだという。(クライマックス前に3歳に戻った時はちゃんとパパにいてほしがるんだけど)

 

 今日行われるアタイの昇格試験の心配をする楽に、ちょっと困って、試験の時間までには戻ってくるというmono。上手袖に向かって駆けだすmonoに楽は「駅前の焼鳥屋に行くのとは違うぞ」と叫びますが、monoは行ってしまいます。

そのmonoの後を「どうする?」「焼鳥屋に行くか」「ドロボー」と追いかけて上手にはける、三日坊主とアブラハム。(自分の寝ていた布団を抱えて)

 

その上手から入れ違いに、目隠しをした3人の男性(昇格試験の試験官)が自分らが座る椅子を持ってやってきます。

そして今横を通ったのはどっちから上って来たのかと楽に尋ね、上って来た方から下りて行かないと死んでしまうと言います。

試験がもう始まりそうなので、楽は慌ててmonoを呼びに行こうと上手の道を行こうとしますが、そこに目隠しして準備万端のアタイがやってきてしまい、試験が始まってしまいます。

 

そのとたん、舞台は真っ暗になり何も見えません。

アタイとイタコたちは、真っ暗と思うのは楽だけで、目の見えないイタコにはこの「闇」はいつもと変わらない、ただこれから聞こえる「声」の中に「死んだ者の声」が混じってくると言います。

暗闇の中、御簾が運ばれてきます。御簾の中にあの伝説のイタコがいて、そこに光源があるので(前田さんが何か光るものを持っている?)ぼんやりその姿が客席から見えます。

 

「その死者の「声」を聞き分けることができた時、無事、死者を口寄せできたと、イタコ合格の太鼓判が押されるのです」と伝説のイタコが御簾の中から言うのに「今の声!」とはっとして「どなたですか?」と聞くアタイ。

オタコ姐さんの声で「本日の試験官を務めてくださるイタコ様、もちろん匿名希望」と答えがあり、伝説のイタコの本日のご説法として、一番大切なものは目に見えないなんて言うが、目の見えない人間にとっては、大切なものどころか全て目に見えない、見えている人間の勝手な思い込みから出たコトバで失礼な話だ、と語られます。

「その攻撃的な口調、お母さんだ!」と御簾に駆け寄るアタイ。

試験官をお母さんだなんてと非難するイタコたち。

「でもあの試験官のイタコの正体、オタコ姐さんならわかるよね」とアタイはオタコ姐さんに同意を求めますが、オタコ姐さんの声で「誰?オタコ姐さんて」と返ってきます。アタイは「何言ってんの姐さん」と驚きますが、オタコ姐さんの声で「そんな人いないよ」と言われ、アタイは「でもずっとアタイの傍に」と驚きますが「でも聞こえていたのは声だけでしょう?」というオタコ姐さんの声に「あたしはマチニイタコだ」「あたしはイツモイタコだよ」と他のイタコたちの声が混じりだし、オタコ姐さんの声に「ほら、死者の声が混じり始めた。その声をよく聞き分けなくては、太鼓判は押されないよ」と言われます。

 

 でもオタコ姐さんと、あの伝説のイタコは私の母さんだって話したじゃないかというアタイに、面白いやつだね、じゃあまずお前の口寄せを聞いてあげるという伝説のイタコ(の声)。

 

アタイと楽は、父の霊を降ろそうとします。

お父さまはご病気か何かで亡くなったのかと尋ねるアタイ。

暗闇の中、御簾がやや白く光り、あとはよく見えないのですが、目を凝らすと、このタイミングで、下手からパイロット姿(半そで白シャツに紺ネクタイ)のmonoが出てきて、まさに亡霊のように(顔は見えないのですが)うつろな感じで歩き、御簾の前に立ち止まると、伝説のイタコのいる御簾の中を、客席に背を向けてしばらく見つめます。

 

三歳の時に亡くなった父親がどうやって亡くなったのか、母親ははっきりと話してくれないが、と楽が暗闇で語るのを、monoは今度は楽の背後に移動して、楽の後ろにしばらく佇み見守ります。

子供のころに父を人殺しと呼ぶ人が家に押しかけてきたことがある、なんでも父が「どーんと行こうや」と行ったからだそうです、と語る楽。

お父様はかつての国王よね?と尋ねるアタイに「いえ、パイロットでした」という楽。

楽の背後に佇んでいたmono、またふらふらと移動し、下手に消えます。

ハムレットってそんな話だっけ?と驚くアタイに、子供のころ、空に憧れたけど母から執拗に止められ、地下鉄職員になったという楽。

 

ここで伝説のイタコに、なかなか父親が現れないことを指摘され、楽は焦りながら「そろそろ出てきていいよ、パパ、戻ってきている?」と呼びかけますが、monoはもう存在せず、「もはやこの恐山の山頂にはいないんだね、あなたのお父さんの霊」とアタイが呟き、舞台が明るくなります。(暗闇が長かったので、観ているこちらも眩しくてしかめっ面になるくらい)

 

明るくなった舞台ではオタコ姐さんもいなくなっていて、御簾は形を失って中に誰かを(役者さんは前田さんで伝説のイタコです)網のようになって閉じ込めたまま、アタイは3人の男性試験官に51回目のイタコ不合格の烙印が押されたことを宣言されます。

もうしばらくのご猶予をと陳情するアタイを見て、楽は父親の霊が自分に下りたように偽装しますが、「嘘はついてないよね」と試験官に問いただされ、3回目に問いただされた時に観念して「嘘つきました、すいません」と謝ります。

この3回目に問いただすタイミングで、試験管やイタコたちは、黒い目隠しを外しています。

「バレバレなんだよ」「みえみえなんだよ」とイタコ達に言われ、驚く楽。アタイに、昇格試験の日は伝統でイタコは早朝から目の見えない振りをするだけで、本当は見えていることを教えられ、楽は、そりゃそうだ、同級生の時、ブッチョウ(アタイの渾名)は目が見えていたと元気なく笑います。

そして「悲しいなあ、私には本当に父が見えていたのに、父が消えた」と言って、monoを探しに下山しようとします。

 

そこへ御簾の向こうから「お前が死者を追いたいのなら、この恐山で上って来た道の反対に下りていくしかない。”死”を賭けていくことになるよ」と声がし、アタイは「まだ、母さん、そこにいるのね!」と喜びます。

御簾の向こうから「下手!糞!ダブルだ。下手糞。お前は本当にダメなイタコだ」と言われ、アタイは「出来の悪い娘でごめんなさい。アタイ一人じゃ何もできない」と嘆きます。

「でもね、私はね、お前がダメでダメでどうしようもないバカだけど、かわいいんだよ」と御簾の向こうから慰められ、抱きあおうとしますが、抱きしめようと伸ばした腕は宙を泳いで「ああダメだ。母さんの身体がない」と嘆くと、御簾から「何が望みなんだい?」と尋ねられ、アタイは「アタイは母さんと会えなくてもいいから、あの同級生の為に、アタイに出てきて」と懇願します。

 

そして、ブレヒト幕が走り、御簾の中に居た前田さん(伝説のイタコ)が消え、代わりに白石さん(アタイ)が御簾の中に入っています。

 

この昇格試験のシーン、とても解釈が難しいなと悩んでいます。

(昇格試験というモチーフに関しては、事故機のJAL123便の副操縦士機長への昇格試験の為に、当日機長の席に座っていた(このことがさらにクルーへのバッシングにつながった)ことから来ているのかもと思います)

 

なぜ、あんなに饒舌だったmonoがこの場面では一言も話さなかったのか。

また、ここに来て服装がパイロット姿になっていたのは何故か。

monoは何故、御簾の中の伝説のイタコをみつめていたのか。

伝説のイタコとは、オタコ姐さんは何者か。

初登場のシーンでは「この子の母親」と自分から言っていた伝説のイタコが、何故試験中はアタイに「お母さんだ」と言われても答えなかったのか、何故オタコ姐さんは「そんな人いないよ」と存在を消したのか。

 

monoがここにきてパイロット姿になったのは、自分の死因を思い出したのか、それとも死んだ直後のちゃんとした亡霊の(?)monoが、時間軸をねじまげて呼び出されたのでしょうか。遺した家族の元に人殺しと非難する人々が押し寄せても、見守るしかできなかった亡霊。

(7/26追記:SNSで見て、なるほどと思った解釈。匣を奪われたmonoは声が無くなっているので、死者の夢では話せても亡霊のmonoは声が無い。声が無いとイタコには死者は見えない)

 

そしてそのmonoが見つめていた伝説のイタコは何者なのか。

戯曲の表記で不思議なのが、私もその通り「御簾の向こう」と書きましたが、演じているのは前田さんで伝説のイタコの格好をしているのですが、台詞の話者名が「御簾の向こうからの声」という表記になっているのです。(試験中は「伝説のイタコ」表記だったり、「伝説のイタコの声」表記になったりしています)

同様にオタコ姐さんもここでは「オタコ姐さんの声」という表記になっていて、さらに途中で「誰?オタコ姐さんって」「そんな人いないよ」「でも聞こえていたのは声だけでしょう」と自分で自分の存在を否定し、明転した時には舞台上から消えています。

そして、オタコ姐さんが楽とmonoに昇格試験に協力してくれるよう頼んだ時に発した「あたしはね、この子がダメでダメでどうしようもないバカだけど、かわいいんだよ」というのと同じ台詞が、この場面で御簾の向こうの伝説のイタコから語られます。

 

シンプルに、亡くなったアタイのお母さんが、出来の悪いアタイを見守っているうちに自分が優れたイタコになってしまった(前田さん)、アタイは出来が悪くても可愛らしいので、伝説のイタコも姉弟子(?)のオタコ姐さんも放っておけなくて、同じ心境で「ダメでバカだけど可愛い」と同じ台詞を呟いた、とも考えられます。

 

しかし、深読みすると、クライマックスでオタコ姐さんもJAL123便の客室乗務員だったことが判明します。(=アタイも3歳の時の事故)

オタコ姐さんがアタイの母であり、ある一面は伝説のイタコに、ある一面はオタコ姐さんになっていた、とも考えられます。

伝説のイタコは前田さんの姿で表わされますが、この舞台で前田さんが演じている他の役は「星の王子様」=こころのメタファー、「白い烏」=JAL123便のメタファーです。

伝説のイタコもアタイを見守る母(オタコ姐さん)のメタファーなのかもしれません。

「御簾の向こうからの声」も前田さんが演じていますが、中身はオタコ姐さんなのかもしれません。

試験中にmonoが伝説のイタコをずっと見つめていたのは、同じ仲間(事故機の乗務員であり、3歳の子を残して亡くなった親である)ということだったのか?

そして3歳の娘を遺して死ななければならなかったことを思い出した母親は、その負い目で(?)アタイに母親だと言えなかったのかも?

 

 2回目に伝説のイタコがアタイに乗り移った時、その場にオタコ姐さんもいて、だからこそオタコ姐さんが「あの伝説のイタコはあんたのお母さんだ」説を持ちだしたのですが、これはアブラハムや三日坊主同様、恐山では死者は自分の正体をなかなか思い出せないということと、これ、ちょっとスピ系の話になりますが、魂って分裂することもあって、前世がマリ―アントワネットだという人が何人も出てもそれは間違いじゃなくて、グループソウルは混ざりあってそこから分裂したりするらしいので、マリ―アントワネットも同時に何人かに生まれ変わったりするらしいです。(これ豆知識(笑))

だからアタイの母親も、オタコ姐さんと伝説のイタコに分裂したのかもしれないですね。

 

それと、戯曲を落ちついて読むと、前田さんの姿の伝説のイタコと星の王子様が見えているのは観客だけで、monoや楽にはあれ、みんなアタイの姿で見えているんですよね・・・。(シェイクスピアもですが)

アタイが口寄せで、伝説のイタコになったり、星の王子様になったり、シェイクスピアになったりしている。

(でもそう考えると、途中の笑う場面で、白石さんが「若いよ若いよ」って言うのをmonoがドン引きして、この前の伝説のイタコさん(前田さん)と雰囲気が違う、あの時の感じの人と会いたい、という流れがおかしくなっちゃうんですけどね・・・。観客は素直に、若くて可愛い前田さんと白石さんとで比較して、monoが若くて可愛い方を選んだと思って笑うけど、monoには両方とも白石さんで見えていたはず)

 

と、わからないことだらけの場面でした。

 

続きます。

 

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