★お気楽日記★

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蜷川版「天保十二年のシェイクスピア」円盤視聴感想&祝祭音楽劇「天保十二年のシェイクスピア」について雑記

長々と天保十二年のシェイクスピアの各場面とシェイクスピア作品の対比など書き連ねましたが、ここからは感想と雑記で。

 

天保十二年のシェイクスピア [DVD]

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蜷川さんの天保の演出はコメディのシェイクスピア祭!という感じでした。

シェイクスピアのお芝居をお手のものにこなす力量の役者さんたちが、軽くパロディを楽しんでいるような。

登場人物のほとんどが死んでしまう展開でありながら、ほとんどの死の場面で笑いが起きる、ウェット感ゼロの演出に思えました。

(唯一佐吉と浮舟の場面が悲しい場面なのですが、ここも佐吉が墓穴に落ちたりするから、笑わせる場面にしたかったのかしら)

登場人物は「ひと」というより動物(畜生)というか弱肉強食な気がして、私はキャラクターに感情移入はしづらかったです。(そういう演出なんだと思う。同情より面白さ)

最初の鰤の十兵衛の財産分けの場面も、お文、お里は父親に身を売らされていたという恨み事が出てきますが、そんなPTSDになりそうなことも「成人式に着物を買ってくれずにおとっつぁんは自分の車を買ってた」くらいの軽い恨み事で傍白する感じで、(これは脚本がそうだということもありますが)弱肉強食の動物的な世界なんだなあ、と。

子供の時は父親に生殺与奪権を握られていて逆らえなかったけど、財産譲られて立場が逆転したら、今度は父親を虫けらのように扱っても弱肉強食で仕方ないよね、みたいな。ここに「昔ひどいことされたから仕返し」みたいなウェットな感情は無くて、「もう意味のない人だからなかったことにしましょう」的な感じ。

主役の三世次についても「こんな醜く貧しい運命に生まれたから人を陥れてでものし上がらないと」という恨み事よりは「だって偉くなってえばったり女抱いたりしたいじゃん、俺以外の人間がどうなろうとどうでもいいし」という単純な悪党のイメージに私は見えました。(これは私の読み取り不足なのかもしれない)

藤原竜也さんも、悩むハムレットなどお手の物でしょうけど、王次はアホな子だからあまり悩まない。

このキャラクターの心理状況は?とかそういうことよりコメディにすることを優先している感じでした。

 

印象に残った役者さんは、毬谷友子さんの声の可愛らしさと、狂ったオフィーリアのお芝居、浮舟太夫の哀れさ(一番感情移入しやすい場面でした)、冒頭のリア王の場面の吉田鋼太郎さん、高橋恵子さん、夏木マリさんのかけあいの上手さ(戯曲読んだ時は何とも思わなかったのですが、テンポよくセリフが応酬されるととても面白い場面でした)木場勝己さんのセリフの聞きやすさというところかな。

藤原竜也さんは華があり、「生きるべきか死ぬべきか」の翻訳を並べ立てる場面とか良かったのですが、もっと深い役を観たかったなあという気にもなってしまう。

(でも私は観劇センスが無いから、いろんなことを見落としたり受け取れてなかったりするのかもしれない)

 

客席に降りて歌ったり客席から登場する場面も多かったので、今回も同様に一生さんが客席に来たら振り返って見てしまうけど、マナー的にはOKなのかしら?

 

しかし、やはり4時間は長かったです。

休憩なしにぶっ続けで見たのもあるけど、3時間くらいで集中力切れてきます。(その辺りで紋太一家、花平一家のメインキャラがみんな死んでしまって)

今回の藤田さん版天保は3時間くらいという話もありますが、それくらいがちょうどいいかも…。

 

 

そして、今回の祝祭音楽劇、(蜷川さんの助手を長く勤めていた)藤田俊太郎さん演出の「天保十二年のシェイクスピア」どんな演出になるのか楽しみです!

 

まず気になるポイントが上演時間。

今までは4時間を超えるような大作でしたが、今回マチネとソワレの時間が5時間間隔。(お客さんの入れ替えに1時間半とか2時間弱とすると、上演時間が3時間ちょい?)

そして東宝さんのミュージカルはだいたい3時間前後。(1幕1時間20分、休憩20分、2幕1時間20分という感じに)

また、チケット販売していたある旅行?代理店のサイトに、12時半の公演の所要時間が12時(集合)~15時半となっていたので、やはり上演時間は3時間程度なのかしら?とも思えます。

しかし、蜷川版天保の時に作者の井上ひさし氏が自分で脚本を削って4時間にされたので、これ以上削れないような気もするからどこを削って3時間にするんだろうとも思ったり。

歌の場面をカットしたらいけるのかもだけど、祝祭音楽劇ではなくなってしまうし。出演者の方も歌える方を(蜷川版以上に)揃えているので、歌はたくさんあるんだろうなあ。(アンサンブルの歌が減ったりするのかな?)

 

浦井さんのインタビューで、藤田さんが「ミュージカルではなくストレートプレイとしてやりたい」とおっしゃっていた話が語られていましたが、どうなのかしら?

私はそれは蜷川版よりもキャラクターの心の動きとか感情を描写していく、共感性を高めることなのかなあと思ったのですが。

(浦井さんのインタビューと言えば、1幕はふうかさんと王次、2幕はふうかさんと三世次でという話をされていて、これは蜷川版では王次は2幕最初で殺されたけど、1時間縮めることで王次は1幕で死んじゃうということ? 浦井さん2幕は別の役をされてたりして? 河岸安とか清水の次郎長とか。深読みしすぎ?)

(あとオーケストラBOXはどこへ?)

 

閑話休題

藤田さんは以前「ジャージーボーイズ」や「ヴァイオレット」でも「今このお芝居を上演する意味、テーマ」にこだわってらしたので、きっと天保も何か時代にそったテーマがあるんだろうな…とは思っていたのですが、私の浅い読解力では戯曲からは読み取れず。

最初の戯曲のテーマは「想像力大事。世の中を変えるのも想像力。また自由も大事。自分と意見の違う他人の自由も尊重しないといけない」「シェイクスピアを小難しくとらえるのではなく、シェイクスピアは筋書きの面白さと言葉遊びを楽しむものだ」ということのように思えるのですが、蜷川版に脚本書きなおした時に、この前説ばっさりカットされていたからどうなんだろう・・・。

後者のシェイクスピアは小難しくとらえないでというのは、本篇に生かされていますが。

あと気になっていたのが「祝祭」というサブタイトル。蜷川版のようにコメディでお祭り騒ぎするならわかるのですが、ミュージカルではなくストレートプレイのようにということからすると、「祝祭」がぴんとこないなあと思っていたのです。

何かを祝うお祭り…オリンピックとかかなあとぼんやり思っていたら、ちょうど浦井さんが雑誌のインタビューで「(藤田さんは)オリンピックイヤーで日本が盛り上がる今年、日本という国の今抱えているオリンピックの裏にある問題をこの作品で浮き彫りにしていこう」と仰っていて、藤田さんの考えているテーマは「オリンピックで浮かれてるけど日本は裏ではこんな問題があるよ」というお話なのかと。

こんな問題がどんな問題なのかはわからないのですが。

 

ただ一生さんがインタビューで「今の世の中の集団心理でみんなが悪いと言っているから悪いと自動的に鵜呑みにしている」ことや、「ちょっとでも問題発言があるとみんなして叩く」不健全さを指摘しているので、この辺りは(蜷川版ではカットされた)「想像力大事。世の中を変えるのも想像力。また自由も大事。自分と意見の違う他人の自由も尊重しないといけない」というテーマに通じるのかもしれないです。

「民衆から生まれて民衆に殺される三世次が今の時代を切り取っている」と浦井さんもおっしゃっていたので、民衆が勝手に期待して勝手に裏切られたとバッシングするようなイメージなのかしら。

 

――などと書きながら、最近問題になっているのは性差別とかミソジニーとかが目につくなあ、私が女性だからかなあとは思っていたのですが、それが天保とは結びついていなかったのだけど、出演者の山野さんのツイッタ―に、天保は性差別に対する風刺劇でもあると書かれていたので、それが(も)テーマなのかもしれないですね。(そこにスポットライトを当てれば、意思は無視されてモノのように女性は扱われる場面は多いですし)

 

 

そして今村眞治プロデューサーから「天保水滸伝」を予習すると良い、生命力溢れつつも常に死と隣り合わせの仁侠の世界が『天保十二年のシェイクスピア』の舞台そのものだからとアドバイスが。(うう、おなかいっぱい…。図書館で天保水滸伝の本は予約かけてきました)

天保に流れる空気感が天保水滸伝のなにか刹那的なところなのかもしれないですね。

 

 

蜷川さん版の天保と、新感線版の天保を比較した感想を見たことがありますが、蜷川さん版の三世次は小気味良いまでの悪で、新感線版は悲劇的要素が強くて三世次も惚れた女に振り向いてもらえない悲しさみたいなものがあったとのことですが、一生さんのインタビューを見ていると、リチャード三世の出だしのように「醜く出来そこないに生まれ犬にすら吠えられるくらいで楽しみごとも無い、となれば悪党となってこの世のむなしい楽しみを憎んでやる」という三世次にするのかな。

私は蜷川さん版では三世次をわりと突き放して見てしまいましたが、一生さんの三世次には感情移入しまくるのかも。

(実は戯曲を読んだ時に、ある2つの場面での三世次の態度の違いに不思議に思うところがあったから落ちついて読み返して、「そうか、この時は…だったけど、次の時はこう心境が変化してるのかも、三世次可哀想だなあ、よしよし」と思っています。イセクラ(一生さんのファン)だから(笑)←芝居や演出内容以前に三世次にシンパシィ)

 

高橋一生さんのインタビューを読むと、お芝居をその日によって変えるような気もするので、10回も観に行くから変化も楽しみにしています!

(初日付近と中日付近と千秋楽付近の3回は観たいなと思っていたのにどうしてこうなった(笑))